たこ焼きから海外旅行まで。事業所内の訓練にとどまらない、ワークスタジオの挑戦。

取り組み

ワークスタジオ群馬で、利用者がたこ焼きを振る舞うキッチンカー「あがタコ」が始まりました。過去10年間程度の記憶が断片的に失われている「解離性健忘」の障がいを持った利用者が責任者として厨房に立ちます。今回は、この「あがタコ」について代表の笠井勇哉氏にインタビューしました。

「あがタコ」の責任者、Kさんについて教えてください。

Kさんは人口7000人程度の村、高山村のご出身です。解離性健忘という症状で、過去10年間の記憶がありません。全ての記憶がないというわけではなく、断片的な記憶が抜けているようです。もともとお蕎麦屋さんを営業されていたようですが、そのことは全く覚えていなくて。

高山村は人口が少ないものですから、いろいろな職業が合体して兼業になっていることが多いんです。福祉も例に違わず、専門的な支援が難しい構造があったようで、記憶障がいのあるKさんはなかなか支援を受けられずにいました。記憶との闘いの中で頭痛やうつの症状も出始めて、大変な思いをされていたようです。

キッチンカーを始めよう、と考えたきっかけは何でしたか。

Kさんがワークスタジオ吾妻を利用するようになり、一緒に焼肉屋やラーメン屋に行きました。彼は障がいを持ってから自動車を運転することができず、外食を全くしていなかったようで、「何年ぶりだろう」と感動されていて。そこで私は、「どんどん新しいことを始めてもらって、刺激を与えよう」と考えました。

訓練の中でパワーポイントや資料作りを任せると、その日のうちにこなす。結果が出て、次はもっとうまくやろうと考える。記憶障がいによって新人のようなフレッシュさを持った彼にとっては、こうやってPDCAを回すことが新鮮だったようです。素直にどんどん取り組み、どんどん能力を身につけていきました。私が見る限り、うつも改善されていったように見えました。 「どうやったら彼のスキルをもっと活かすことができるだろう?」と考え、キッチンカーを企画しました。おしゃれなこと、たとえばITやゲーム開発という手段もありますが、みんなが楽しめるものとして考えたのは「たこ焼き」。たこ焼き嫌いな人ってなかなかいないじゃないですか。しかも、吾妻事業所の近くに作りたてのたこ焼きを食べられる場所がなかったんです。

たこ焼き作りを始めてみて、どんなふうに感じましたか。

たこ焼き作りっていろいろな作業があるんです。買い出し、仕込み、パッキング、接客など。そこで訓練に来ている他の利用者の方にも手伝っていただいたのですが、これが「課題の切り出し」に繋がると思っていて。やる人、やらない人、続く人、続かない人が出てきて、じゃあこっちの作業ならどう?と提案する。何もアクションを起こさずに、ハードルを設置せずに営業すれば無難かもしれませんが、それでは新しい世界が見えてこない。たこ焼きのキッチンカーは、良い課題になりました。

8個入500円で、嬬恋キャベツ、高山ねぎ、吾妻の水を使っています。ボリュームたっぷりなので、食べきれないくらいの量かもしれません。タレは秘伝のものを使用していますよ。

毎回100パック以上売れるので、仕込みは結構大変です(笑)。10月にオープンして、初月の売上目標は達成しました。また数字だけでなく、周囲の人間関係にもメリットをもたらしました。Kさんの両親が毎日のようにたこ焼きを買いに来て、小さい声で「息子が変わりました、ありがとうございます」と言うんです。「あがタコ」に賛同する人としない人がいますが、参加している人はみんな笑顔になっています。

またワークスタジオ群馬では、利用者に向けて海外旅行を提案するプロジェクト、WSW(ワークスタジオ・ワールドワイド)もスタートしました。

WSW、どんなプロジェクトなんでしょうか。

ワークスタジオがワールドワイドに進出するための通過点として、利用者に向けて海外旅行を提案しています。まずはタイ、バンコクに3泊4日。日本を立つのは夕方です。

WSWの特徴は、福祉職員が利用者個人の障がい特性、性格特性に合わせて旅行をプランニングできるところです。周るスポットだけでなく歩く道まで猛烈に細かい計画を立てます。ただ一般的なツアーのようにはせず、自立した考え方、自発的な行動を身につけるために行動課題を設定。それを実現するかどうかは利用者さん次第です。異国文化を知り、生活に活かすことが最大の目標ですからね。

また、今後も海外に行くチャンスはあると思うので、そのためにホテルや航空券のチケットは利用者ご自身に取っていただきます。外国語講師をつけ、入国審査やオーダーの勉強もしておきます。もちろん「このホテルだよ」とか「この便だよ」といった案内はしますが。

旅行先をタイに設定した理由は?

タイの特徴は、生活圏の上下が観察できるところです。高級な料理もあるし、その近くでは屋台で50タイバーツ(150円くらい)でお腹いっぱい食べられる。ユニクロすら高級で、1ヶ月の収入が8万円くらいで生活している人々がいる。ローエンドを経験できるところが面白いんです。さらにはパクチーやレモングラスなどの香りが漂い、現地に行かないと得ることができない生の情報がたくさんあります。

両替、小規模店舗でのオーダー、水上マーケットでの買い物などの行動課題を設定していますが、これ以外のイレギュラーもどんどん起こるでしょう。WSWを通して、そういった部分にも対応できるようになるわけです。

次回は来年の7月に予定していて、すでに旅行する利用者は決定しています。こういったアクティビティこそが結果を生むと考えているので、どういうコンテンツを実現したらよいか検討を進めています。

前橋事業所
前橋市天川大島町1203-1金井ビル2階【前橋大島駅より徒歩1分】
TEL:027-261-3055

吾妻事業所
群馬県吾妻郡東吾妻町大字原町721-1【群馬原町駅より徒歩5分】
TEL:0279-26-2803

ワークスタジオ群馬・オフィシャルウェブサイト
https://www.wsgunma.com/

タイトルとURLをコピーしました