卒業生インタビュー 【継続は幸せへの道標】

就労者インタビュー

今回は、ワークスタジオ吾妻の卒業生 S さんにお話を伺いました。
S さんは、2年間の就労移行訓練の終了後、地元のイベント系企業に就職して博物館のスタッフとして働いています。
私は常々、S さんは「人の話を聞く力」「人の話を引き出す力」のある方だと思っていました。そんなSさんですからやはり今回もお話がとても弾み、こちらが期待していた以上の“手ごたえ”を感じられるインタビューをさせていただけました。


-まず最初に、ワークスタジオ吾妻を利用したきっかけを教えてください。


学生時代の頃から、約20年間、家の中が中心の生活をしていました。
19年5月頃、主治医から B 型事業所の利用を勧められたり、それをきっかけに手帳を作ったほうがいいという話も出てきて、それで悩んだり焦ったりしていました。
また、同じ時期にひきこもりの男性が登校中の小学生を襲った事件(川崎市登戸通り魔事件)がありました。その事件を受けて某 TV 局のアナウンサーが事件に対して無理解なコメントをしているのを聞いたりと、勝手に「ひきこもり」のイメージを決めつけようとする報道の仕方に違和感を覚えました。
そんなときに、折り込みチラシで「ワークスタジオ吾妻」が利用者を募集していることを知りました。今までは自宅から通える範囲内で就労移行支援事業所は無かったし、自分にとって驚きでした。
必死にもがいていたら、いろんなことがタイミングよく重なり、急にポンと「ワークスタジオ吾妻」が目の前に現れた感じで、「手帳が無くても通える」という点が後押しとなり、利用を開始しました。

-いろんな経緯があっての利用開始だったのですね。では、ワークスタジオ吾妻を利用して、
これが良かった!というポイントはありますか?


やはり、パソコンの能力が身に付いたことです。ワークスタジオに通う前は Word が少しできたくらいでしたが、通い始めてからはブラインドタッチもできるようになったし、パワーポイントで資料も作れるようになりました。
何と言っても、障がいに理解のある環境や雇用主とのつながりを持てた、というのも大きかったです。悩んでいた状態からの「抜け道」を作ってもらえたのは大きいと思うし、自分もワークスタジオが無ければどうなっていただろう、と思います。

-素敵な出会いに恵まれたことも、大きなポイントだったのですね。では、ワークスタジオ
吾妻で学ぶ中で、特に役に立った知識などはありますか?

ワークスタジオではビジネスマナーや仕事哲学を教えてくれますが、座学よりも、いろんなキャリアや経験を持った支援員さんたちと交わした会話のほうが勉強になった気がします。
支援員さんとの会話の中で「社会とは?」「働くとは?」ということをイメージすることができました。
また、笠井所長から「自分メインで話をするのではなくて、相手の話を『聞いて』そこから話題を引き出す」ということを教えてもらいましたが、自分の中でもそこから「人の話を聞く姿勢」を意識するようになりました。


-S さんの「聞く力」は所長のお話がきっかけだったのですね。では今度は、今のお仕事の内容ややりがい等について教えてください。


現金出納帳の管理、注文を受けた関連グッズの発送作業、それから来客予約の情報を他のス
タッフと共有する役割も担ってます。
他にも、雑用や接客なども幅広く担当していますが、自分の適性・長所を生かせる仕事をさせていただいていると思っています。


-現在のお仕事に就いたきっかけを教えてください。


責任者の遠藤さんには「人と関わる仕事がしたい」「接客もしくは事務系がいい」等、就業に対する自分の希望を伝えてありましたが、そんな経緯もあって、今の就職先で訓練をさせてもらうことになりました。
実際に訓練を始めてみて、仕事内容が自分の希望やイメージと重なったこともあるし、博物館で流しているプロジェクションマッピングにすごく感動し、「こんなところで働けたら、幸せだろうな」と思ったのが、就職の決め手となりました。

-施設外訓練を何度か経験した職場とはいえ、就職するときに心配事はありませんでした
か?

自分で納得して選んだ就職先とはいえ、やはり私にとっては初めての就職だったから、漠然とした不安はありました。自分はまだ就職1年生で、経験の無さとか足りない部分がたくさんあると思っていました。
就職して1年経った今でも、そういった不安はまだまだ感じますが、自分にとっていわば「空白の20年間」は必要だったんだ、と思うようにしています。少しづつ勉強していくしかないと、前向きにとらえるようにしています。


-今後の目標やビジョンなどありますか。


この職場に就職できたのは、なんらかのご縁でしょうし、「今まで頑張ってきたからたどり着けた」んだと思っています。
館長より、ゆくゆくはこの博物館をまわしていけるような責任者になってほしいとのお話をしていただいたことがあります。お客様はファミリー層が多いですが、帰りの車中で博物館内のアトラクションの話をして、「楽しかったね」と言ってもらえるような博物館にしていけたらいいと思っています。

-後輩たち(現利用者やこれからワークスタジオの利用を考えている方々)へのメッセージが
あったら、お願いいたします。

最初はちょっと怖いですが、思い切って一歩踏み出すことはとても大事です。
「どうせできないよ」と思っていたら、ずっとできないままです。
「もしやったら、できるかも」とトライしてみたら、できることもあります。
つらくても何かひとつのことを続けていれば、後で「あの出来事は自分にとってこんな意味
があったんだ」と気付けることもあります。
例えば、「今日は事業所に行きたくない」と思っても、「行けば新しい発見があるし」とか「急に休んだら支援員さんに申し訳ないから」とか、そういった楽観的な気持ちでも通所を続けていれば、きっと成長した自分に出会えます。
私がそうでしたから(笑)。私もネガティブな気持ちになる日がありましたが、それを乗り越えたから今がある、と思います。

最後に、S さんは今の報道の在り方について、次のように述べてくれました。
「19年の小学生襲撃事件のあと、お偉いさんがひきこもりの息子を殺害した事件(元農水事務次官長男殺害事件)もありましたが、そういった事件をきっかけに、世間からのひきこもりに対する偏見が強まってしまったと思いました。
実際はひきこもりのタイプはいろいろあり、みんなが危ない事件を起こすわけではないのです。実際、私も長い間、自分がひきこもりだという自覚はなかったのですが、かかりつけ病院にあったパンフレットを見て、自分も俗にいう“ひきこもり”に該当するんだと知って、ビックリしたほどです。
世間の方たちには『TV の報道を真に受けないで』と伝えたいです。TV を見ている人たちは報道されたことがそのとおりだと思ってしまう節があるから、報道する側はその点を心得て、情報を伝えてもらいたいと思います。」

その言葉を聞いて私自身も実際に専門職としての勉強を始める前は、精神障がいのある方やひきこもりの方に対して、「なんとなく怖い」「暴れるかも」などという偏見があったな、と反省致しました。
専門職としての自分の役割は、障がいがあるかどうかに関わらず、全ての人たちにとって生きやすい世の中を作るための一助になることだと、決意を新たにいたしました。
そのためにも、これからも勉強を続け、こういった場で世の中へ情報発信していきます。

ワークスタジオ群馬・オフィシャルウェブサイト
https://www.wsgunma.com/

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